「手紙」

本当はずっと
降参したいと思っていました。
だけど
降参するような弱い人とは
誰も友達になってくれないような気がして
戦ってるふりを
続けていました。

私がいつか
あなたに見せた武器。
あのピストルは   おもちゃです。
キャンディーの弾が入ってる
おもちゃです。
時々取り出しては
おやつにしていました。
もしかしたら  あなたは
そのことに気づいていたのかもしれませんね。

私はそろそろ  降参します。

私はずっと
いつか自分が
降参する日がくるだろうと思っていました。
あわよくば   降参した時
ひとりぼっちにならなければいいなと思っていました。

あなたは   私と
友達でいてくれますか。

答えを聞くのが怖いので
この手紙を投函したら
そのまま私は
どこか遠くへ旅に出ます。

いつか   あなたと
キャンディーを食べられたらいいな。
あなたは
いちごとレモンとメロンなら
どの味か好きかな。

ありがとう。
私は降参します。

もう
正しい言葉を探すのも
苦いお酒をおいしいと言うのもすべてすべてやめます。

私は降参して
世界でいちばんつまらない人間になります。








「カフェの隅で」


生きていることと
手を繋ぎたくなって

マグカップの持ち手を
ぎゅっと握った

ここに ある
ここに いる   








「反抗期」


よさそうな言葉であふれているから
何も聞きたくない

よさそうな食べものであふれているから
何も食べたくない

よさそうな人であふれているから
誰にも会いたくない


うそつき

うそつき

うそつき


時々やってきて
すぐに過ぎていく
反抗期


はいはい
そうだね
そうだね


甘やかされたくて

いちばん優しそうな形の
雲を探した







「オーロラ行き」


あなたの苦しみ
わたしにはわかるよ
と言おうとした

やめた


言えたらいいのに

これからいっしょに
オーロラを見にいこうよ


きらきら光るチケットを
あなたに渡して
動揺してるあなたの手を引いて
オーロラを目指したい


あなたの苦しみ
わたしにはわからない


オーロラへ
オーロラへ







「背中」


恋人同士だった頃
一度
ふたりで
蛍を見に行きましたね。

夏の夜。
田んぼの奥の暗い道。

あなたは
フラフラと頼りなく飛ぶ蛍のあとを
ゆっくり  ついて行きました。
ゆっくり  振り返らずに。

その姿は
まさに
幸せに向かって
歩いているようでした。

幸せになあれ。
幸せになあれ。

消えそうな蛍。
消えそうな背中。

幸せになあれ。
幸せになあれ。

あの夜
あなたの背中を見つめながら
わたしは
あなたの幸せを祈り続けました。

わたしは
あなたを愛することが
とても下手でしたね。

わたしは
あなたの背中とは
とても
仲良しでした。







「バウムクーヘン」


さよならの日。
あの人は
泣きじゃくる私と
握手した後に
大きな白い箱をくれた。

箱の中身は、
バウムクーヘン。

去年の私の誕生日に
ふたりで食べたのと同じ、
あのバウムクーヘン。

おいしい!
とふたりではしゃいだ、
あのバウムクーヘン。

あの人は泣かなかった。

さよならを決めた
私だけが
いつまでも泣いていた。

あの人は
いつも
やさしかった。

私は
いつも
あの人のやさしさに
こてんぱんにやられ続けていて
もう
立ち上がれないほどになっていたのに
それでもなお
最後まで
あの人はやさしかった。

とどめの一撃のような、
バウムクーヘン。


立ち上がれなかった。

おいしかった。

食べきれなかった。