「行って、戻って」
 

 
出かけては、戻ってきた。

歩いて、
車で、
電車で…
どこかへ出かけては、
家に戻ってきた。

行って、
戻って、
行って、
戻って…。

そのくり返し。
わたしの生きる、小さな世界。

もしもわたしが 
行って、
行って、
行ってしまったら、
会えなくなるね。

もしもあなたが
行って、
行って、
行ってしまったら、
会えなくなるね。

会えなくなるって
簡単で怖いな。

 

 

 

 

 


 

 

「ろ過」
 

 
このこころを
とり出して
ろ過したら
きっと
黒いつぶつぶが
残るでしょう。

それを
子どもが
誤って口にふくんだら
苦くて苦くて
吐きだしてしまうでしょう。

わたしは
はずかしいです。

子どもに食べてもらえる
おいしいこころじゃ 
ないことが。

あの人は
今日もまぶしいです。

あの人は
今日もやさしいです。

あの人のこころは
きっと
とても
おいしいのでしょう。
 

 

 


 

 

「みどり」
 

 
一面の  みどり。
果てしないみどり。

わたしは
歩く。
歩く。

ここはいつだって
暖かくも
涼しくもない。

時々
びゅうっと風が吹く。

風は
さっきまでの
ことばも
きもちも
ぜんぶ遠くへ連れていく。

飛んでいったものには
もう
追いつけない。

わたしは
草を踏みしめて
歩く。
歩く。

一面の  みどり。
みどり。
みどり。

わたしは
明るい人でも
暗い人でもありません。

わたしは
やさしい人でも
冷たい人でもありません。

わたしは
みどりの中を
歩き続けるだけの人です。
 

 

 


 

 

「たね」
 

 
あなたは
どんな風と
どんな水と
どんな太陽と
どんな愛情と
どんな生命力で
つくられたの?

どうやって
どうやって

私の目の前にいる
あなたになったの?

私もね
昔は
たね  だったんだよ

 

 

 

 


 

 

「あんしん」
 

 
仕事のこと
これからのこと

大人の顔して
あなたに
喋り続けてしまったな

あなたも
大人の顔して
聞いていたね

ごめんね
そうするしか
なかったよね

ごめんね
やり直したいな
あの時間

もしかしたら
あなたは
わたしが
わんわん泣いたら
安心するんじゃないのかな

なあんだ
花や
猫や
赤ちゃんみたいに
ぜんぜん
怖くない生きものじゃないか  と

安心して
子どもみたいに
笑いだすんじゃないのかな

安心させたいな
安心したいな

正体を現して
安心して
あなたと
一緒にいたいな